コピーコントロールCD導入が指し示す音楽業界の未来
text by KEN=GO→
 音が劣化するかもしれないこと、再生できないプレイヤーがあること、これまでは可能だったさまざまな聴き方を制限されること…コピーコントロールCD(以下、CCCD)で取りざたされる問題は、突き詰めてしまうとレコード会社にも、リスナーにも、評論家やメディアにも、そしてアーティストにとっても、大した問題ではないのかもしれない。CCCDの導入に唯一敏感に反応したのは、パソコン業界だった。まぁ、それまでさんざんCDのリッピングとかCD-Rの利便性を煽ってきたのに突然NGを突きつけられたのだから、当然なのだが。
 “エイベックスの得意な売れ線のダンス系J-POPなんて聴かないから関係ないな”とか思っていたひと、“親会社でパソコンやオーディオを作っているビクターやソニーや東芝は導入しないよ”と高を括っていたひと、それどころかこの期に及んでも“CCCDってナニ?”なんて言ってるひと、そんなあなたたちの態度も各社のCCCD導入体制の加速化に拍車をかけてしまったことは事実。猛省しましょう。といっても、たぶんもう手遅れなんですが。
 今さらこれまでのあらすじなんて説明しているとアッという間に紙幅が尽きるので、基礎からやり直したいアナタは「ミュージックマガジン」02年7月号の高橋編集長の記事を読んでもらうか、もしくは、本文最後にまとめたCCCD関連のサイトを巡ってみて下さい。最も重要なことだけ再度確認しておくと、現在日本でCCCDを導入した会社は……
■既発組■ エイベックスビクター、ワーナー、ポニーキャニオンユニバーサル東芝EMIテイチクゾンバ
■2003年1月22日から発売■ ソニーキング
となっていて、要はシェアの上では既に大半の日本の音楽はCCCDでリリースされることに決定されたということ。中でも、エイベックス、東芝、ビクター、ソニーは、原則的に全タイトルがCCCDになる。ゾンバを除く全社がイスラエルのミッドバー・テック社開発のCDS(カクタスd・データ・シールド)という欠点の多い技術を用いており、またCCCDを導入するのはユーザーのパソコンを使った違法コピーが横行しCD売上が危機にさらされているからだとしている。
 さて、今回の記事を書くにあたって、無数のウェブページを読みあさり、何人もの業界関係者に話を聞き、知識も考えも整理されてすっきりした気持ちで筆を走らせている予定だった。少なくとも、リスナーには利益のなさそうな今回のCCCDを誰が導入したがっているのか、もっと端的に言うと「で、悪者は誰なのよ?」という疑問には自分の中で答えが出せると思っていた。でも、“簡単に割り切れることではない”とでかい文字が書かれたぼんやりとした巨大な壁が、取材を進めるにつれどんどん自分の前に積み上がっていく。そんな気持ちの悪いやり方でしか問題に取り組めなくなるまで事態を放っておいたことが元凶で、結局は音楽業界自身に非があるのだと言うこともできるが、逆に言えば、その杜撰な体制のおかげでリスナーはこれまでどんどん進化する便利さを享受してきたわけだ。話は複雑になる一方である。
 「いや、CCCDでも何でも、とにかく手を打たないとどうしょうもないよ。サイン会なんてやると、悪びれた様子もなく買ったCDじゃなくコピーしたCD−R持ってくるヤツがいるんだよ。そんなのをいちいち説教してまわるわけにもいかないしね。業界全体の売上の減少具合をみたって、斜陽産業で働いてるって感じだよ」とは、某レーベルで売れっ子のヒップホップ系グループを手掛けるディレクター氏の弁である。邦楽のディレクターの中には音楽制作そっちのけで接待やら根回しやらに血道をあげるひともいると噂に聞くが、彼がそんなタイプでないことは普段の仕事ぶりやアーティストからの信頼の度合いを見れば判断がつく。つまり、よくCCCD反対論で出てくる、『音楽に愛情もなく、使い捨て音楽を産みだしてる連中』には該当しない人物だと思う。彼はいくつものヒットの現場に立ち会い、現在もトップを走っているのに、職を失う心配をしている。こんなにストレートに口にすることはなくとも、音楽ビジネスに関わるすべてのひとが心のどこかでそんな思いを持っている可能性はある。
 主に打ち込み系の音を手掛けるプロデューサー氏は、昨年関わったあるグループのアルバムがCCCDになった。ようやく盤ができたとき、「やっぱりこれはデザイナー泣かせですよ」と嘆いていた。そう、あのくどくどした注意書きを入れなければならないことが、デザインやプロモーションにまで気を配るプロデューサーとしては気に入らないというのだ。肝心の音に関してはどうか。「確かに音は変わっちゃう。生音だったりするとひどいことになるかもしれないけど、今回は逆にそれが味になったと思うから、自分としてはオッケーだった。ほら、わざと古いサンプラー通して音をざらつかせるとかするでしょ。そんな感覚かな」。
 想定外の機材の使い方をして、出てきた音がおもしろかったらそのまま使ってしまうというような乱暴さが電子音楽にはあり、そこが魅力のひとつとも言える。だから彼のような考え方も出てくるのだろう。しかし、その諦念にも似た割り切り感と比べると、機材の電源ケーブルを変えることでいかに音が良くなるかを切々と語る彼の表情が明らかに輝いていたのは記しておかねばなるまい。
 音が悪くなるかどうかに対しては、音作りの現場にいるひとたちが、数少ないながら一様に「変わってしまう」と発言している。だからこそ、後発の会社は独自技術(ビクターのエンコードK2やソニーのピュア・デジタル・リンク・システム)を使い、それを最小限に留めようとしている。テイ・トウワや吉田美奈子はそれを「問題ない」、「些細な変化」とし、宇多田ヒカルや矢井田瞳、山下達郎といったひとたちは自分たちの作品には採用できないという決断をした。
 一般的な契約内容では、複製権を持つレコード会社がどのような形でCDやビデオやMDやレコードを作って売ろうと自由だということになっていて、会社が決めたらアーティストといえど従わざるをえない。現状では、CCCD化を技術的に逃れる術は、CD−EXTRAにするか収録時間を73分以上にするしかない。本来、いい音楽をパッケージングすることに全精力を傾けるはずの制作者たちが、無理に長尺のアルバムを作ったり、不要な追加コンテンツに時間と予算をとられるとしたら、本末転倒だし滑稽だとも言える。
 レコード会社系列のスタジオにいながら、確かな腕で社外のアーティストも多く手掛けるマスタリング・エンジニア氏は、「こんなものを使わなくてはならない世の中が情けない」と漏らした。
 「機材の中にユニットがひとつ増えただけでも、ケーブルが変わったり伸びたりしただけでも音が悪くなってしまう。そんな中でシビアにやっているのに、CDの制作過程に新しいコピーガードというものを加えて、音がいいはずがないです」と。言われてみれば当然のことだ。マスタリングをする側では、情報も経験も少なすぎるために、どうすれば最終的な音が良くなるのか現状ではわからないそうだ。アナログ時代も知る彼に、レコードからCDへの移行のときのことを尋ねると、「最初は音がひどくてガッカリした」と言う。当時と今で違うのは、CCCDを買わされるリスナーにはひとつも利益がないことだ。
 実は今回取材を進める中で、どんな立場のひとたちも皆、「あまり大きな声では言えないけれど…」とか「絶対名前は出さないで」という雰囲気を濃厚に発していた。特にレコード会社社員には箝口令のようなものが徹底されているようで、軽い気持ちで雑談していたことが上司の耳に入って大騒ぎに!というような事態が数件発生した。そんな危うい雰囲気を肌で感じると、最初は鼻で笑っていたイスラエルの陰謀説も妙に説得力が増してくる。誰も語らないから憶測が増殖する。
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■関連サイト■
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マクロヴィジョン
(米コピープロテクト大手。ミッドバーを買収)
key2audio
JAYFREAK ONLINE
(CCCDのFAQなど充実)
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(技術系ライターが運営)
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(CCCD特集、BBSもある)
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